人物ファイル

プロスノーボーダー 秋月綾子さん

もうちょっと、もうちょっと、という少しずつの努力の積み重ね。「気づいたらこの場所に立っていた」

富士見町出身。1977年生まれ。
PSA ASIA Snowboard Pro Tour 13.14 Snowboardcross Rookie of the Yearに選ばれる。


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最初はこてんぱんにやられました

 彼女が参戦する競技、それはスノーボードクロス。
2006年のトリノオリンピックから冬季オリンピックの正式種目となった競技である。複数人で滑るので接触や、転倒なども多い、見ていてもハラハラドキドキさせられる競技である。
 秋月さんはそのスノーボードクロスのプロライダーだ。そんな彼女に聞いてみた。スノーボードの事を、スノーボードクロス競技の事を、家族の事を、自分の人生についてを。 

「元々はスキーをやっていました。そんなに一生懸命にという感じでもなかったですね。短大時代、まわりの友達なんかが楽しそうにスノーボードを滑っているのを見て、ちょっと興味が湧いたというのがきっかけです。すぐに上手に滑れたかというと全然そんな事はなくて、ワンシーズンかかってようやくひとつのターンができたくらいです。みんなが出来て自分が出来ないのが悔しくって、随分孤独な練習を重ねました。
 当時は富士見パノラマスキー場のレストランでアルバイトをやっていたので、アルバイト終了後、ナイターで練習をしていました。でも、自分がどこまで滑れるかという具体的な目標もなく、人並みに滑れればよい。友達と一緒に滑れて楽しい時間を共有できればよいと思っていました。卒業して地元の病院に勤務し、介護の仕事をこなしながらも、それでも滑る事だけは続けていました。最初はハーフパイプなどもやっていたのですが、早い人が勝つという、シンプルなところが自分の相性にも合っていたのか、スノーボードクロス競技の世界に入っていきました。
 最初の大会に出場したのは、スノーボードを始めてから2シーズン目くらいの22才の時だったのですが、結果はボロボロでした。大会に出れるレベルでは無かったんです。何度も何度も転倒しましたし、こてんぱんにやられましたね。」
 彼女の第一歩は輝く勝利どころか、見るも無惨な敗北だった訳である。ただ彼女はそれであきらめはしなかった。いや、むしろさらに闘志を燃やした。そしてスノーボードの神も決して彼女を見捨てはしなかった。

 

遅咲きのプロになる

「その大会から、出るからにはみっともない姿で負けたくない。絶対にいつか勝ちたいと心に誓ったんです。そこから、もうちょっと、もうちょっと、と何年にも渡って滑ってきました。ひとつの目標をクリアするために、少しでも上手になりたい。その思いだけで。スノーボードが自分を頑張らせてくれるんです。そして2シーズン前に、とうとうプロになりました。」
 そんなふうに語る秋月さん。
   そんな秋月さんを見てご家族の方はなにかおっしゃっていますか?と尋ねてみた。
「主人は以前からのスノーボードの仲間だったのですが、応援してくれていますよ。夜中に移動しなければならない時も、運転して連れて行ったりしてくれます。感謝しています。」
 2013年、秋月さんはプロ一年目だけが受賞できる、ルーキー・オブ・ザ・イヤーに輝いた。ツアーで3位以内に入賞した人だけに与えられる輝かしいものだ。しかもこの賞は生涯に一度しか受賞できない栄誉だ。
   現在37歳になられたわけですが、自分の年齢に関してなにか思いはありますか?
「競技を続けていく上で年齢のピークというものを考える事はあります。例えば20代の人には勢いというものが確かにあります。私は経験を積んできました。その自分に持っているものでどういう風にレースを展開していくのかを考える事は悪くはないし、楽しい事です。プロを続けていくモチベーションも持ち続けていますし、体力が落ちているという感覚もありません。不注意には気をつけているのでけがもあまりありません。
 けがは、以前ひざを骨折したことくらいかな。その時はあまり痛みも感じなかったし、いつけがしたのかわからなかったですね。でもアスリートとして、自分の体を休める、メンテナンスする、ということの大切さを知りました。そして、そんなことをしてこなかったことを反省しました。」

 

自分にとってスノーボードとは

     随分長い間スノーボードを滑り続けてきた訳ですが、もしスノーボードに出会わなかったらどうだったでしょうか?
「そうですね。もしスノーボードと出会ってなかったら、こんなに一つの事を究められていたかどうかはわかりませんね。スノーボードだからこそ、それが少々苦しくても自分をここまで引っ張ってきてくれたんだと思います。」
    スノーボードをしている時以外は、どんなことをしていますか?
「昨年はジムに通ったりして体を鍛えたり、ラジオ体操などもマメにやる様にしています。仲間と温泉に行ったり、カヌーにも挑戦してみましたね。楽しかったですよ。レースのスタートゲートに入り、ゴールする迄の時間以外はたいていリラックスして過ごしています。」

 

今後の事、そして夢と目標!

     さて、今シーズンの予定を教えて下さい。
「シリーズ戦は全て出場する予定です。1月に車山で初戦が行われます。全ての大会のファイナルに残れる様に頑張るつもりです。もちろん優勝を目指します。ROOKIE OF THE YEARの次はBEST RIDERを目指します。年齢を重ねてもいつまでも第一線で滑り続ける、そんなアスリートになりたいですね。他の様々な競技でもそうだし、このスノーボードクロスの世界でもいくつになっても第一線で頑張っている選手は国内外に多くいます。私もそんな選手になりたいし、お手本にもなりたいと思います。素敵な仲間や応援してくれる人達と一緒に滑り続けたいんです。スノーボードこそが私に頑張りを与えてくれたのですから。」
 そんなふうに語る秋月さんの輝くばかりの笑顔がそこにあった。

  • 今回の取材場所を提供していただいたチューンナップ工房【スノーラグハウス】。秋月さんの細かい注文にも笑顔で応えるオーナーの白井さん。

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