人物ファイル

陶芸家 河野史尚さん

兵庫発、沖縄・イタリア経由 八ヶ岳山麓行きの作陶旅行

兵庫県出身
2010年富士見町に雲歩窯を開窯。
諏訪郡富士見町富士見2621-10
Tel/Fax 0266-62-7884
e-mail  unpo@nexyzbb.ne.jp

 

河野さんを取材させて頂いたのは1月15日の夜6時。カゴメ富士見工場前の道路から雲歩窯までの道は、雪に覆われ軽自動車では入って行けそうにない。道端に車を停め、周りを眺める。200mくらい先の林の中に建物があり、中から光が漏れている。多分あれだなと思い、サラサラの雪の道を歩く。気温が低く、乾燥しているからこんなパウダースノーになっているのかなと考えながら進んで行く。街灯はなく、懐中電灯も持っていなかったが、ほぼ満月の月明かりが足元をしっかり照らしてくれるから問題はない。多少息切れしながらも何とか雲歩窯に到着した。

林の中の雲歩窯

河野さんが、富士見町に雲歩窯を開いたのが今から4年前。そして、3年前から本格的に陶芸の道を再び歩み始めている。八ヶ岳山麓に来たのは今から12年程前に遡る。奥さんが山梨県の出身で、時々八ヶ岳方面も訪れていた。何回か来ているうちに、こちらの雰囲気に魅了され住もうかという話になった。かと言ってすぐに窯を開ける訳ではなく、色んな仕事をやりながら資金を貯め、窯を開くのに最適な場所を探し続けた。そして、4年前、カゴメ富士見工場のすぐ近くの林の中に雲歩窯を開いたのである。

「窯を開くのは全国どこでも大丈夫なんです。周りに良い土が無ければ仕入れればいい。それよりも、日照時間や風の通り方、乾燥した気候などが僕には重要でした。自分がどんな環境で生活するのか、どんな場所で作陶するのか、どんな人達と接するのか、そんなことを考えて富士見という場所が気に入りここに窯を開く事にしたんです。こちらに来てから時間が掛かったけどいい場所を見つけることができました。」

竜宮城からの脱出

陶芸と真剣に向き合ったのは大学だった。進路を決める際、幼い頃からものづくりが好きだったということもあって、芸術系の大学へ進学したいと考えていた。どうせなら、生まれ育った兵庫県や関西ではなく行ったことがない場所で学生時代を過ごしたいと考え、沖縄にある芸術大学の陶芸科に進んだ。

「学生時代は本当に楽しかったですよ。沖縄は自分にとって竜宮城のような楽園で、陶芸はもちろん、ウインドサーフィンやトライアスロンなんかにもハマりました。結局、大学院まで行かせてもらい、卒業後もしばらくいて、足掛け8年間、沖縄で過ごしました。でも、このままそこに居続けたら浦島太郎になっていまいそうだったので、沖縄を出ることにしたんです。」

武者修行in Italy

焼き物は、世界各地、それぞれ伝統的なものが存在する。土、釉薬、焼き上げる温度などによって焼き上がりに違いが生じる。それは、文化・伝統の違いであり、その場所で生きている人々の感覚の違いである。

大学、大学院を通じて日本の伝統的な焼き物を学んだ河野さんは日本以外の焼き物についても学んでみたいなと思っていた。そして、イタリア旅行をした時に何カ所か窯元を訪ねた。その中の一人にこの人の下で学んでみたいと思う人がいた。日本に帰り「あなたの工房で働かせてもらいたい」と手紙を書いた。
1ヶ月待っても3ヶ月まっても、返事が来ない。これもイタリア人気質なんだろうか、それとも、手紙が届いてないんじゃないだろうか。結局、半年経ったが返事は来なかった。

「えーい、行ったれ!!と思って、その人の工房へある日突然、押しかけたんです。もちろん、その人はびっくりしてましたね(笑)『来るんちゃうかなとチョット思ってたけど、ホンマに来たんかいな!!』って感じだったと思います。手紙は届いていました。でも、その人の所では、身内のご不幸があったり、組合の問題があったりして働くことはできませんでした。ただ、せっかく来てもらったのに申し訳ないということで、その人の友人がやっている工房を紹介してもらい、そこで働かせてもらうことになりました。」
せっかく、紹介してもらった工房であったが、まわりの従業員はあまりいい顔をしなかった。差別や偏見などではなく、自分の仕事がなくなってしまうのではないかという危惧があったのかもしれない。居心地の悪さを感じ、1週間でそこを後にすることにした。しかし、再び、違う仕事の紹介があった。リサイクルペーパーをノートや葉書にするという仕事だった。焼き物とは全く異なる仕事だったが、生活を通じてイタリアの文化も学べると考え受けることにした。そこでは約1年間働かせてもらい、日本に帰ってきた。

「つながり」と「融合」

日本の伝統的な陶器を焼き上げる最終的な温度は1,230~1,250℃である。最初は素焼きをする。850℃まで1時間に100℃ずつ温度を上げていく。そして一旦、窯を冷やす。素焼きした陶器に釉薬を塗り、今度は1,250℃位までまで1時間に100℃ずつ上げ、約12時間程掛けて焼いていく。「富士見などの寒い地域では、冬には土や釉薬が凍ってしまって陶芸ができないんです。だから、冬場はこちらの地域の伝統的な産業である寒天作りのお手伝いをやっています。早朝から夕方までとなかなかハードですが、肉体労働はスポーツみたいな要素があるし、早寝早起きでよく食べるから少し太ってしまいました(笑)」

雲歩窯の中を見渡すと、器の他に焼き物の魚や動物のオブジェが飾ってある。
「自分自身は器の方が好きなんですが、学生の頃から周りの人達に『お前は、器よりもオブジェの方が面白いものを作るね』って言われていたんです。器を作る際は、シンプルで使い勝手が良いものを心がけていますが、オブジェは遊び心を忘れずに、器では使わないような釉薬を使ったりして製作を楽しんでいます。」

最後にこれからの目標について伺った。
「昨年もクラフトフェアやいくつかのイベントに参加させて頂いたんですが、今年はお会いした方ともっと、コミュニケーションを楽しみたいですね。実際に器を手に持ってもらわないと良さはなかなか伝わらない。そういったコミュニケーションを通じて自分の世界も広がって行くんじゃないかなと思います。それから、木や鉄、ガラスなど他のクラフトとのコラボレーションもやっていきたいですね。具体的に進んでいるものもあるし、今後の出会いで始まるものもあると思うので今からすごく楽しみです。」

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