人物ファイル

木彫りアーティスト 大原竜幸さん

木に囲まれ、木に魅せられ、そしてまた新たな世界へ

工房アートレビー主宰。
1985年生まれ。
京橋、銀座などで個展を行う。
小さいお子様から大人までどなたでも木彫りで作品が作れる体験メニューを用意。

カンカン ザッザー
木を彫る音だろうか、それとも何かを削っているのだろうか。
音に誘われるように工房に向かう。
と、突然まるでジブリの世界に入り込んだような、そんな不思議な世界が広がる。

今回取材に訪れたのは、山梨県北杜市にあるアートレビー 大原竜幸さんの工房。
まだ若いアーティストだが、実際の年齢以上の落ち着いた雰囲気で来客者を出迎える。
工房のまわりにあるギャラリーは全て大原さんの手作り。
木の板を何枚も何枚も重ねてできた家はまるで絵本に出てきそう。
丸い窓からかわいいうさぎがひょっこり顔を出してくるかも、そんな想像もかきたててくれる。
そんなギャラリーには様々な作品が展示され、見るものを飽きさせない。

 訪れた転機

伝統的な木工、木彫り職人である父の背中を見ながら育った大原さん。
父の影響で小学校低学年より刀を握り、木彫りをするのが日常となった。
しかし、思春期に入る頃にはそんな父の姿に背を向ける自分がいた。

(木屑にまみれた生活は嫌だ)
そう思った彼は木彫りの道から離れて大学を目指し、そこで興味があった人間と生物との関わりを学ぶことになる。
しかし、いざ大学生活が始まると、本当にここが自分のいる場所だろうか、と自問自答するようになった。情熱が注げるのはやはり何かを作り上げる、ものづくりの世界ではないか。そう気づいた彼は大学を中退し木彫りへの道へ再び戻ることになった。

作品は小物、雑貨から始まり、大型の家具まであらゆるものを木で制作している。
ただ物を作り上げるというのではなく、それぞれに彼の才能を感じることができる細工が施されている。明かりをつけるとランプシェードに浮かぶ木彫りの生物。椅子の背もたれに隠されたカタツムリ…。
作品の一つ一つに彼の生物に対する思いが表現されている。

 独特な世界への追求

昨年より、今までずっと表現したかった「想夜散歩」という作品の制作を始めた。
これまでの木彫りに終わらず、そこから発展させた形だ。
木彫りの作品に加え、照明の明暗を利用し撮影により生まれた作品だ。
黒を基調としたこの作品は工房の2階に展示されている。
現在は約30点。
階段を登るにつれ高まる期待。それを裏切らない、圧倒的な存在感。
原始の記憶、文明が生まれる前の記憶を表現したそう。独特な世界観でありながら、ぐっと見る者をその世界に引き込んでいく、そんな力がある。

誰しも親に反抗した、そんな経験があるだろう。
本心とはうらはらに反抗したくなる、愛情を受けているからこそ反抗したくなる、そんな時期なのだろうか。
しかし、親の影響はたとえ少ないにしても必ず受けている。
そして、自分で切り開いた道も必ず生きてくる。
大原さんが途中で抜け出したくなった木彫りの世界。
しかし、一度離れることでまた新たな面から木彫りを見つめる機会になったのかもしれない。
これからどのような作品が生み出されるのか、ますます楽しみだ。
自分のやりたい事に突き進める人は多くはない。
いや、突き進む決断を下せる人は多くはない。
彼の作品からは木彫りへの真っすぐな思い、限りない探究心を感じることができる。

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